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そもそも糖尿病ってどんな病気?

藤原道長の憂鬱

むかし、むかしの平安時代、「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることのなしと思へば」と詠んだ藤原道長。歴史の教科書にも出てきたこの道長は糖尿病だったと伝えられています。同時代の公家、藤原実資が残した「小右記」によると、道長が「のどが渇いて水を大量に飲む」「痩せて、体力がなくなる」「背中に腫れ物ができた」「目も見えなくなった」と書かれていて、どれも糖尿病の症状と考えられています。名前がわかっている日本最古の糖尿病患者、藤原道長の時代からおよそ10世紀。現在、日本で糖尿病が強く疑われる人はおよそ1000万人もいると推測されています。糖尿病予備群である糖尿病の可能性を否定できない人もおよそ1000万人。あわせて2000万人、日本人のおよそ15%もの人が糖尿病にかかっている可能性があるのです

糖尿病とインスリン

あらためて糖尿病とはどのような病気なのか。日本糖尿病学会の糖尿病治療ガイドによると「インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群である」と書かれています。簡単に言ってしまうと、本来、すい臓で作り出されるインスリンの働きで体内の取り込まれるはずの糖(血糖)が、何かしらの理由で取り込まれず血液中に大量にある状態のこと。この状態がなぜまずいのか。血糖濃度の高い状態が長く続くと、血管が傷つき様々な障害が起こることになるからです。

代表的な糖尿病のタイプとして1型と2型があります。1型はすい臓でインスリンを作る細胞が壊されてしまい、インスリンがほとんど出ず血糖が高くなるタイプ。小児から思春期に多く発症し、糖尿病全体の5%が1型と考えられています。そして、糖尿病の90%を占めると言われているのが2型です。原因は生活習慣や遺伝と考えられ、インスリンの分泌量が少なかったり、効きが悪かったりすることで血糖値が高くなるタイプです。40歳以上に多く、肥満の人に多く見られます。運動不足や食べ過ぎも原因と言われています。

命にかかわる合併症

糖尿病でもっとも気をつけたいのが合併症。最近の日本人の死因ワースト5は「がん」「心疾患」「老衰」「脳血管疾患」「肺炎」です。このうち、「心疾患」と「脳血管疾患」は糖尿病の合併症として引き起こされる危険性があります。さらに糖尿病になると「がん」発症のリスクも高まります。この他にも網膜症や腎症、神経障害、認知症、歯周病など様々な合併症が発症する危険があるのです。

その道は健康に続きます

糖尿病の治療目的は血糖値や体重、血圧などをコントロールして、合併症を患うことなく健康な人と変わらない生活の質(QOL)と寿命を確保することです。治療には食事療法と運動療法、薬物療法がありますが、いずれも継続して行うことが大事。医療が進歩した現在とはいえ、残念ながら一朝一夕で糖尿病を改善することはできません。『一病息災』と考えて、糖尿病だからこそ毎日を健康的に過ごすことを心がけ、楽しく暮らしてみてはいかがでしょう。